Marlene Dietrich/最後のレコーディング

何年も前に手に入れて、初めて耳にした時には涙さえ流したにもかかわらず、ぼくのレコード棚からみつからないままでいるのがマレーネ・ディートリッヒのラスト・レコーディング盤である。そのレコードを作ったのは、名高きバート・バカラック。指揮者兼アレンジャーとして、5年間彼女をサポートし続けた。そしてバカラックは、マレーネがその生涯で最後に愛した男でもあるのだ。自叙伝によれば、マレーネはコンサート・ツアーの間中、ずっとバカラックの下着や靴下を洗い続けたそうである。

彼女の栄光と影の部分の明度をわけているもの、それは彼女がドイツ人だから、とか、13年間に渡って、寝たきりの生活を余儀なくされるという悲劇的なドラマツルギーに彩られたという理由もあるのだろうが、ハリウッドの虚栄の篝火に、彼女が馴染むことがなかったのが最大の理由なのではないだろうか。それは、マリリン.モンロー、ことノーマ・ジーンが、ついぞ幸せを手にすることなく(もちろん莫大な富と名声は手に入れたが)悲壮な変死を遂げたのによく似ている。

そんなマレーネの最後の想いの吐露が刻み込まれたラスト・レコーディング盤、もう少し探してみようと思う。